イベントレポート

Xperia 1 / Xperia Aceのタッチ&トライイベントに参加していろいろ聞いてきました(3/3)

5月16日に都内で開催されたソニーモバイル主催のブロガー向けイベント「Xperia 新製品タッチ&トライ」ブロガーミーティングに参加してきました。

前回前々回と、Xperia 1およびXperia Aceの特徴をスライド画像を見ながらおさらいしてきました。

今回は、この2機種の開発に携わった各部門のエンジニアと話をして得た情報や、タッチ&トライをして感じたことをまとめます。

Xperia 1について

進化したパープル&新提案のグレー

Xperiaを愛してくれているユーザーの声をどれだけ入れ込めるかということを裏テーマにしてデザインした。

Xperia 1ではスクエアで薄い形状、側面指紋センサー、伝統のパープルカラーの3点が見事に復活し、ファンも頷くようなソニーらしい、Xperiaらしいデザインが戻ってきました。その裏にはファンの声にできるだけ応えたいという想いがあったようです。

パープルについては単に復活させただけではなく、今の新しい技術がふんだんに取り入れたものになっているそう。パールの中に青みがかったパールと赤みがかったパールを両方入れることによって、非常に深いけれどビビッドな、発色の良い、リッチな色に仕上がっているとのことでした。

以前よりも深みのあるパープル。角度を変えることで若干色が変わる。生き生きとした感じもある。

懐かしさが感じられるパープルに対して、新しい提案となるのが「グレー」です。ふつうはメタリックに仕上げるところ今回はあえてソリッドに抑え、上から透明加工を施すことで、さりげない高級感を出しているとのことでした。スマホとしては珍しいカラーです。

艶なしの基礎に透明なガラスを重ね合わせることで、さりげない高級感を生んだ。スマホとしてはとても個性的でおしゃれに感じる。ドコモユーザーの僕としては採用キャリアがauのみというのが惜しまれる。

薄型化の裏に隠された苦労

Xperia 1の「1」には原点回帰の意味も含まれているといいます。原点回帰といえばパープルの復活もそうですが、本体の形状もXperia XZ1以前の薄くスタイリッシュなデザインに戻っています。これを実現するためにいくつかの苦労があったようです。

内部設計を決める機構設計のエンジニアに話を伺ったところ、Xperia 1の薄型化には「指紋センサーの配置変更」「ワイヤレス充電機能の削除」「有機ELディスプレイの採用」の3点が大きく関わっているとのこと。

有機ELディスプレイについては前作Xperia XZ3で採用済みで、これによって1つ前のモデルであるXperia XZ2からかなりの薄型化が図られていました。

今回は、厚みの原因となっていたワイヤレス充電と指紋認証のためのパーツを背面側から取り除くことによって、さらなる薄型ボディーが実現されています。

ワイヤレス充電機能の削除については社内でも賛否あったようです。しかし今回はデザインを重視して削除を決めたとのことでした。

また指紋センサーの配置については、このエンジニアの方が直接話していたわけではありませんが、どうやら特許等のさまざまな問題があってXperia XZ2以降はやむを得ず背面への搭載となっていたが、Xperia 1ではいくつかの問題をクリアすることによって側面配置に戻すことができたそうです。

余計なものを排除したり問題をクリアすることによって薄型デザインを取り戻したXperia 1。

画素数は落ちたが画質は変わらない前面カメラ

Xperiaのフラグシップモデルにはここ数世代に渡って画素数が1,320万画素のフロントカメラが搭載されてきました。しかしXperia 1のフロントカメラは800万画素に画素数が下がっています。なぜ画素数の低いカメラをわざわざ採用したのでしょうか。

Xperia 1のカメラを担当したエンジニアによると、スマホのベゼルは年々狭まってきており、Xperia 1でもさらなる狭額縁を目指すために、これまでよりも小さなセンサーを内蔵した、より小型のカメラモジュールを採用する必要があったとのことです。

しかし、確かに以前のものと比べて画素数は下がっているが、そもそも高画素=高画質ではないし、画質を劣化させないように努力もしているので、少なくとも画質は担保されている(下がってはいない)とのことでした。

Xperia XZ3よりもかなり狭くなった上側のベゼル。ギリギリまで狭額縁化させた。

ベゼルを狭める方法としてはディスプレイにノッチやパンチホールを作るやり方もありますが、それでは映像コンテンツを目一杯楽しんでもらうためにせっかく搭載した21:9ディスプレイも意味が薄れてしまいます。ソニーとしてはカメラの仕様を変えてでも正攻法で狭額縁を実現したかったのだと思います。

本来の色を忠実に再現するクリエイターモード

Xperia 1には「クリエイターモード」という新しい画質モードが追加されていてこのイベントでも繰り返し紹介されていました。しかしこの機能の良さを理解するのはなかなか難しい。ということで、何が凄いのかをディスプレイの担当エンジニアに易しく説明してもらいました。

クリエイターモードを知るにはまずマスターモニターというものについて知らなければなりません。マスタモニターは、映像制作スタジオなどで映像設計の基準器として使われる、プロ向けの最高品質のモニターのことです。業界ではソニー製の「BVM-X300」という製品が広く使われているそうですが、1台のお値段はなんと税抜428万円。

ハリウッドの映画製作の現場にも導入されていて、監督などがこれを見ながらチェックしたりOKを出したりしているそうなのですが、そんなマスターモニターと同等の映像をXperia 1上で再現できるのがクリエイターモードなのです。

Xperia 1の画質モードはデフォルトでは「スタンダードモード」に設定されているのですが、こちらは忠実路線のクリエイターモードとは対照的で、テレビ的にあらゆるものを鮮やかに見せるという発想で設計されています。用途の多いスマホにおいてこの特徴はほとんどのシーンでメリットをもたらしますが、こと映画コンテンツに限って言えば必ずしも最適とは言えなくなります。作品によって、あるいはシーンによっては、鮮やかすぎると伝わらないニュアンスというものがあるからです。

映画では常に正しい色を表示しなければなりません。それをマスターモニターではないパネルで再現することは非常に難しい。普通に作っていれば同じ色にはならない。だけど、Xperia 1にはマスターモニターの開発チームと共同で開発したクリエイターモードが搭載されているので正しい色をほぼ再現することができる。10万円そこそこのスマホで映画館のクオリティが再現できる。そこにクリエイターモードの価値があるんだと熱く語っておられました。

400万円以上するマスタモニターの実物とXperia 1の映像を見比べる。確かに遜色ないように見える。

左右どちらもXperia 1で、左がクリエイターモード、右がスタンダードモードで表示したもの。裏手にあるのがブラビア。クリエイターモードは映像データを味付けせずにそのまま表示するので少し落ち着いた印象になる。

ちなみにXperia 1にはiPhoneで言うところのTrueToneのように、周辺の光の影響を受けても常に同じ色を表示してくれるような機能は搭載されていません。

マスターモニターは基本的には屋内で使用するものですし、余計な光が当たらないようにフードも付いています。しかしXperia 1はスマホです。いろいろな場所で使用するため、場所によって同じ表示でも違う色に見えてしまうことがあります。この辺り、何か対策が打てるとさらに完成度は高まるのかなと思いました。

正しい音で映画を視聴できるスマホ

Xperia 1はサウンドにも力が入れられています。Xperiaでは初となる音響技術「ドルビーアトモス」に対応。その上で、映画を手がけるソニー・ピクチャーズのエンジニアと共同でチューニングがされています。

オーディオの担当エンジニアは、映画の音としてどれが正しいのかをソニー・ピクチャーズのエンジニアに確認を取りながら、Xperia 1のサウンドを入念に作り上げていったと言います。

サラウンドはいたずらに強調しようと思ったら滅茶苦茶に派手にできる。しかしそれだとセリフが引っ込んでしまい、ストーリーに集中できなくなる。サラウンドはあくまで脇役。それ以上であってはいけない。足りなくてもいけない。そこが難しい。ベストなレベルというものがある。それを彼らと協業で調整していったことで、他社と比べて1段、2段も高いレベルのサラウンドを実現することができた。

なおXperia 1はドルビーアトモスに非対応のコンテンツでもバーチャルで処理がされるようになっていて、再現性はやや落ちるものの、十分に楽しんでもらえるサウンドになっているということでした。

業界標準に切り替えたサラウンド技術

Xperia 1ではこれまでのXperiaに組み込まれていたソニー独自の「S-Force フロントサラウンド」の採用をやめ、米国ドルビー社の音響システムである「ドルビーアトモス」が採用されるようになりました。

この理由についてオーディオエンジニアは、本来であれば独自技術でやりたいところだが、実際のところ映画館の音響システムのデファクトスタンダードがドルビーアトモスになってしまっていて、映画館と同じサウンドを実現したいと思った時に、現状ではドルビーアトモスが最良の選択だった、と言っていました。

S-Force フロントサラウンドも搭載してユーザーに選択してもらうことも考えたそうですが、現在は間違いなくドルビーアトモスがスタンダードで、NetflixやU-NEXTなどの配信サービスも対応が始まっている中、それほど普及していない独自技術を搭載したところでユーザーを混乱させてしまうだけなので搭載を見送ったとのことでした。ただ、ドルビーアトモスは自社の技術ではないが、変更可能なパラメーターをいくつか調整することで若干のソニーらしさは出せているそうです。

スピーカーの左右バランスは特に念入りに調整

何を当たり前のことをと思われる方もいると思いますが、Xperia 1はこれまでのXperiaと違って2基のスピーカーのうちひとつはディスプレイと水平方向に向いて取り付けられています。

これについて、左右のバランスがおかしくなってしまうのではないかと質問したところ、Xperia 1では信号制御によって各パートのサウンドが適切な位置で聞こえるようにしっかりと調整してあるので、問題なく快適にサウンドを楽しんでもらえるということでした。

もちろんこれまでのように両側が正面を向いている方が理想的ではあるものの、今回は筐体のデザインを優先。無理やりスピーカー口を前向きに取り付けることは可能だったが、逆に品質が落ちるため、今回は横向きでの搭載にした。将来的には正面に向けて取り付けたいとは思っている。とのことでした。実は同じスタイルでスピーカーを搭載しているiPhoneなどの他のスマホは、Xperia 1ほどの調整はされてないそうです。

なお、テーブルの上にXperia 1をそのまま置いてしまうと音が反射して左右のバランスが狂ってしまうので、普通に手で持つか、あるいは市販のスマホスタンドなどを使って本体とテーブルとの間に少しでも隙間が開くように置くのが理想的とのことでした。

Xperia Aceについて

Xperia Aceは究極のニュートラル感を目指した

Xperia Aceのデザインを担当したエンジニアはこのように言っていました。

Xperia Aceは究極のニュートラル感というものをテーマにデザインした。

”ニュートラル感”という表現は捉え方が難しいのですが僕はこれを「誰にでもぴったりはまる」と解釈しました。

Xperia Aceはとにかく使い勝手の良さを最優先にしてデザインしてあるそうです。本体サイズや重さ、形状、素材、色、動作速度、安定性、UI、機能、耐久性、そして価格。機種を構成するこういったすべてのパラメータを、誰がどのように使ってもちょうどよく感じるところで調整してある。そういう意味でのニュートラルです。

中でもサイズ感には一番気を使ったそうです。Xperia Aceの約140×67×9.3mmというサイズは、最近のスマホの中ではかなりコンパクトです。現行のXperia XZ2 Compactと比べ、縦横サイズはわずかに大きいものの、厚みは12.1mmから9.3mmへと大幅にスリムに。重さも10g以上軽くなっています。重心にまで気を配って片手操作や長時間利用でも疲れにくいように作られています。

持ったときの印象はとてもマイルドです。フレームが丸みを帯びているので当たりがソフトで、しかも手に触れる部分は樹脂でできているのでメタルのように冷たい感じがしません。樹脂は軽量化にも貢献しています。背面はグラスファイバーを練り込んだ強化樹脂となっているので耐久性に優れています。

メタルは逆に高級感や重厚感を出すのに適しています。Xperia Aceでは、上部と下部のフレームにメタルが使われていて、しかもこの部分だけ他と少し違う仕上げになっていて、光の当たり方で違う色に見えておしゃれです。

カラーはパープル、ホワイト、ブラックの3色。プロモーションカラーはXperia 1と同じパープルです。女性が好む色味だと思います。ホワイトはニュートラルを表現するのに最適で、同じ白でもきれいな真っ白に見える色味になっているとのことです。

ボリュームボタンはかなり個性的です。ボリュームアップとダウンが別個になっているのがそもそもXperiaでは珍しい。そして丸形状。このようにデザインした理由はウォークマンなアイコニックを表現したかったからだそうです。

Xperia Aceはミドルレンジのコンパクトなモデルでありながら、ハイレゾ音源の再生やDSEE HX、LDAC/aptX HDに対応し、内蔵スピーカーもステレオで、しかもハイエンドモデルには無い3.5mmオーディオジャックまで備えています。イヤホンを挿せば聞ける。手軽に使える音楽プレイヤーとして最適です。

ディスプレイが21:9じゃない理由は?

Xperia Aceを初めて見たとき、上下のベゼルが太くて野暮ったく、少し時代遅れなデザインだなと正直なところ思いました。

僕はXperia 1の21:9ディスプレイに大きな魅力を感じていたので、下位モデルであるXperia Aceにも同じものを搭載すべきだと思いましたし、搭載しなかったソニーの判断はちょっとおかしいのではないかとさえ思いました。

この点についてXperia Aceのデザインを担当したエンジニアさんに話を伺いました。

縦長ディスプレイを搭載して本体が長くなってしまうとポケットへの収まりが悪くなってしまうし、片手持ちで親指で全部操作できるように設計しているのに、それができなくなってしまう。そうなるとコンセプトが変わってきてしまう。21:9ディスプレイでかつコンパクトで、というのはまた別のモデルで、というふうになってくる。

このイベントのプレゼンではXperia X CompactやXperia XZ3 Compactなど過去のCompactシリーズを使ってきたユーザーに自身を持っておすすめできると紹介されていましたが、実際のところXperia AceはこういったCompactシリーズの系統ではなく、単に使いやすいサイズと重さにこだわって一から設計されたコンパクトモデルとなります。ですから過去に発売されたXperia Aシリーズの後続モデルと考えるのが正しいです。

シネマ視聴に限らず、普通の方が普通の使い方で最も快適に使えるであろうポイントを探っていった時に、21:9ではなく、一般的な18:9のディスプレイが最適であるという判断がされたわけです。

確かにXperia AceはXperia 1のコンパクトモデルを謳っているわけではありませんから、この機種に21:9ディスプレイを求めるのはおかしかったですね。今後発売されるかもしれないXperia 3やXperia 5といったバリエーションモデルでそれを期待したいと思います。

ベゼルが広いことについては、ここまでコンパクトなモデルでは、ある程度ベゼルがあったほうが誤タッチによる誤操作が防げるし、今回は内蔵スピーカーによるサウンドにもこだわりたかったので、このベゼル幅にしたとのことでした。

指紋センサーと電源ボタンの一体化が実現できた理由は?

Xperia Aceの電源ボタンは指紋センサーを兼ねた従来のスタイルを採用しています。Xperia XZ1以前はすべてこの形でした。しかしXperia 1では指紋センサーと電源ボタンが別個に用意されていて、機能が別々になっています。

電源ボタンを押せばスリープの解除と生体認証が同時に行われるので、一体型のほうが使い勝手は上です。理想はこの形なのですが、Xperia 1では実現できず、Xperia Aceでは実現できた理由は何でしょうか。

それは、Xperia Aceの発売国が日本に限定されているからのようです。一説によると電源ボタンと指紋センサーを一体化する技術の特許は他社がもっていて、地域によってはそのような機能を持つ端末を販売することができない。Xperia 1は世界中で販売するモデルなのでNGとなるが、Xperia Aceは日本限定モデルなのでOK、ということのようです。

タッチ&トライイベントを終えての感想

何年かぶりに参加したXperiaのタッチ&トライ ブロガーミーティング。プロモーションビデオや大手メディアのインタビュー記事に登場するような責任者クラス(?)のエンジニアの方々が会場に来ていたことに驚きました。こんなことは今回が初めてではないでしょうか?僕が今まで気がついていなかっただけ?どちらにせよ、すごく気合が入ったブロガーイベントだったことは間違いありません。この方々とお話ができたり、直接質問させていただけたりと、実に楽しく、濃密な時間を過ごさせてもらいました。

質問しまくっていたらあっという間に時間が過ぎてしまい肝心のタッチ&トライがほとんどできないままイベントが終わってしまいました。そういうわけで今回のイベントレポートはどこか大事な部分がぽっかり空いたような間抜けな内容になってしまいました。ですが、他のメディアやブログには載っていないオリジナルの内容を少しは皆さんにお届けできたのではないかと思っています。それだけで僕は大満足です。

2機種通して感じたのは、特徴を最大限アピールできるようにデザインがされている、ということです。Xperia 1なら21:9ディスプレイを、Xperia Aceならサイズ・重量です。この特徴のためなら他のものは全部犠牲にできる。そういうある種の覚悟のようなものを感じました。また、各パーツ、各機能ごと、それを手がけたエンジニアの熱い想いを感じました。全部意味があってそうなっている。誰のために?ユーザーのために、ファンのために。そう考えるとこちらも胸が熱くなります。

最後に、このような素晴らしいイベントを開催・運営してくださった、ソニーモバイルコミュニケーションズ様、ならびにアジャイルメディア・ネットワーク様に、改めて感謝を申し上げます。有難うございました。